まさか、買うのか?

 時花はごくりと固唾を飲んだ。

 二六四万円もの腕時計を――これのどこにそんな価値があるのかは彼女には判らないが――買いたがる好事家が存在したという事実に、時花はカルチャー・ショックを受けた。

 ましてや庶民的な服装の、安っぽい若者がだ。


「この時計さ! いつか俺が買う日まで、誰にも売らずに取り置きしといてくれよな!」


 …………。

 …………。

「あれ?」

 ところが。

 男性客の要求は、購入を決断するものではなかった。

 一応、買うつもりのようだが、遠い未来の話らしい。肩透かしにも程がある。

「こ、購入のご予約ということでしょうか? 取り置きですと前金が必要ですが……」

「金はとりあえず、来年の七月二〇日までにはそろえる予定だ!」

 なぜか日時が提示された。