原告の石上三年は、訴訟を取り下げた。

 裁判の危機は回避されたのだ。

 かくして『時ほぐし』は汚名を返上し、鑑定士の元上司が逮捕された。途端にネットから悪評が消えうせたのは言うまでもない。

 大手チェーン店ならいざ知らず、個人経営の小さな店を執拗に糾弾する持続力など世間にはない。人の噂も七五日と言うが、わずか数日で風評被害は鳴りを潜めた。

 客足も徐々に回復し、ネット通販もVの字回復している。致命傷は避けられた格好だ。

「とはいえ、今回の騒動で退会なされたお客様もいらっしゃいますので、新たな顧客を獲得する必要がありますよ」

 午前九時五〇分――開店前に店長がパソコンを叩きながら、失笑を浮かべた。

 時花は隣で商品カタログの書類をまとめている。

「はいっ。僭越ながら私も全力を尽くしますっ! まだ研修期を終えたばかりのヒヨッコですけど――……きゃああっ!?」

 意気込んだ拍子に手が滑り、せっかくまとめた書類を盛大に散らかしてしまったのはご愛嬌か。