時計メーカーのことは彼女のあずかり知らぬ領域だが、風評被害となると話は別だ。
大切な店を、聖域を潰されかけた義憤が沸騰する。時花は髪を振り乱し、店長の横から割り込むように鑑定士を敵視した。
話の腰を折られた鑑定士は、小娘の鬼気迫る形相に尻込みした。
「な、何だ小娘、貴様には関係ない――」
「ありますっ! 私怨で人様に迷惑をかけるなんて、言語道断ですっ! 大体、贋作に手を染めたのはあなた自身の行動ですよねっ? それを人になすり付けて、うまい汁だけ吸おうだなんて、虫が良いにもほどがありますっ!」
抑圧されていた激情が炸裂した。
たまりにたまったストレスを叩き付けてやらないと気が済まない。時花らしからぬマシンガン・トークは鑑定士の気勢を削ぎ、脱力させた。
「う、うるさいっ! 青二才が口を出すな――」
「もう言い逃れは出来ませんよっ。刑務所できっちり罪を償って来て下さい!」
相手の言質はすでに取った。
時花の目配せとともに、叶が携帯電話をかける。警察への通報だ。
溝渕もそれを黙認した。鑑定士を贋作騒動の犯人として突き出せば、全てが丸く収まるのだから止める理由はない。