「これでも飲んで落ち着いて下さ――……きゃうっ!」
ずっこけた。
時花は自他ともに認める『ドジ』である。それがこの状況でも発動した。
「ぶはっ! あちちっ!」
お茶が宙を舞い、鑑定士の手首へ降り注いだ。
鑑定士は熱湯まみれの手首をハンカチで拭く。その際、袖をめくってアクアノートの姿があらわになった。
時計の右側面には、珍しい形のリューズが突起している。
「ねじ込み式リューズだ!」人差し指を向ける石上。「やっぱり俺のアクアノートじゃないか! 鑑定士のは『引き出し式』リューズだったはずだよね?」
白日の下にさらされたアクアノートは、言い逃れ出来ない物証となった。
「時花さんのドジが、黒幕を暴きましたよ!」片目をつぶる店長。「お手柄ですね!」
「う、嬉しいような悲しいような……」
出来ればドジを踏みたくない時花にとって、醜態が事件解決に貢献しても喜べない。
石上が鑑定士に詰め寄る。
「今までのたくらみを、洗いざらい吐いてもらうよ? お前が贋作を所持していたんだろう? 俺が質に入れようとした本物のアクアノートとすり替えたんだ!」