「そ、そんなことはしていない……これは自分のアクアノートだ……!」

 鑑定士は、咄嗟に手首を袖で覆い隠した。

 手首にはアクアノートが巻かれているが、よく見えない。かねてより彼が愛用していたものらしいが、果たしてその真贋は――。

「それ俺のアクアノートだよ! 見せてみなよ!」

 石上が飛び付いた。

 鑑定士と揉み合いになるも、溝渕に引き剥がされて暴力沙汰だけは踏みとどまった。

 店長もまた立ち上がり、冷淡な視線を鑑定士に突き付ける。

「課長のアクアノート、僕にも鑑定させていただけませんか?」

「こ、断る! 何を疑っているのかは知らんが、他人に見せびらかす義理などない――」

「お茶をお持ちしました~」

 ――そんな折、ようやく事務員がお茶を盆に乗せて来た。

 鑑定士のために淹れた緑茶だが、あいにく客間は鑑定士を巡る丁々発止(ちょうちょうはっし)の真っ只中だった。事務員は怖気(おじけ)付いて立ち止まるしかない。

「あ、私が運びましょうか?」

 時花が助け舟を出す。

 うろたえる事務員からお盆を引き継ぎ、代わりにテーブルまで持ち運ぼうとした。