2.
こうして時花は、古物時計店『時ほぐし』の店員となって十二月を迎えた。
まだ研修同然の新人だが、冒頭の窃盗未遂に代表される「時計の揉め事を解きほぐす」場面は何度も遭遇した。
そのつど、華麗に問題を解決する店長に惚れ直すのだ。
「店長、先日の窃盗未遂事件はお見事でした! 鮮やかに解きほぐしましたね!」
今日も時花は、美形の店長に尻尾を振る。店長の頼もしさが、彼女の閉ざされた心を開かせたのだ。異性として憧憬を抱くのも無理はない。
店長は時花の接近を手で制し、えくぼを刻んだ。
「あの手のお客様は、結構多いですよ。風師さんも留意しておいて下さい」
「そうなんですか? 泥棒が多い……?」
「売り払った商品に未練があって何度も見に来たりとか、欲しいけどお金が足りない品物を毎日覗きに来たりとかは、泥棒の予備軍として要注意ですね」
「はぁ~、判りました。勉強になりますっ」
時花はせいぜい鼻息を荒くして、肝に銘じた……つもりになった。
真剣に覚えようとしても、元が鈍感だから、けろりと忘れてしまうのが玉に瑕だ。