事務所の扉を開け放った石上の後ろから、溝渕弁護士ともう一人――スリーピースに身を包んだ辛気臭い中年男性――も入室を果たす。
「事務員さん、この方にもお茶を出して下さい」
溝渕が事務員に声をかける。
喋りながら鑑定士を客間へ通すと、空いているソファに着席を勧めた。
無論、その向かい側には『時ほぐし』の面々が臨戦態勢を整えているのだが。
「……むっ?」
鑑定士は歩みを止めた。
ソファに腰かける直前で、店長の顔に気付いたのだ。笑中に隠された激昂を感じ取ったのだろう。たちまち踵を返すや、室外へ遁走を試みる。
「おっと、逃がさないよ?」
石上が立ちはだかった。
扉の前で通せんぼをして、ソファに押し戻す構えだ。
「ぐぬぬ……たばかったな!」
鑑定士は眉間にしわを刻んだ。
不惑を過ぎて久しい年齢である。広い額、枯れた細腕。年季の入ったスーツは、他に着るものがない一張羅と言った具合だ。整った身なりに反して、実は懐事情が厳しそう。