憤怒を取り繕うように微笑む店長へ、時花は諂笑(てんしょう)を返すのが手一杯だった。

「のう依頼主よ、鑑定士が矢陰光さんと知り合いだった可能性はないですかのう?」

 思いがけない仮説を振ったのは、叶だ。

 老練な頭脳が導いた推論は、店長と時花にはない発想だった。あり得ないと否定しつつも、もしかしたら……と想定するブレイン・ストーミング的な論調で店長も応じる。

「どうでしょう。光さんに知己が居たのなら、僕の耳にも入っていると思いますが……」

「では逆に、一方的に鑑定士が『時ほぐし』を知っていた可能性はいかがですかな?」

「一方的に?」

「店名だけ向こうに知れ渡っていたとか、何らかの逆恨みや妄執を買っていたとか」

 さすが弁護士は思考が柔軟だ。こちらが想像もしない可能性をすらすらと思い付く。

「一種のストーカーみたいなものですか?」

「そうとも言えますな」お茶で舌を湿す叶。「贋作容疑を押し付けただけでなく、裁判の証人まで引き受けたとなると、ただの闇ブローカーではない気がするのです――」


「ただいまっ!」


 ――そこまで語ったとき、石上三年が帰還した。