(矢陰光さんは潔白だったんですね)安堵の息を吐く時花。(あの人は本物を仕入れてました……ちょっぴりドジなだけの、純粋な女性だったんです)

 疑いは晴れた。

 残るはアクアノートの行方だけだ。

「じ、じゃあ本物はどこへ消えたのさ……!」

 石上は頭を抱えた。

 そう――『時ほぐし』は本物を販売したのに、鑑定士に指摘された瞬間から、なぜか偽物にすり替わっていた。

「あっ! そう言えば銀座の鑑定士も、手首にアクアノートを巻いてたっけ」

 石上は質入れの様子を思い出した。

「鑑定士が?」

「しかもリューズをグイッと引っ張って使ってた(・・・・・・・・・)よ! あれこそが偽物だったのか!」

 銀座の鑑定士は、わざとらしく自分のアクアノートをひけらかして、石上に親近感を抱かせ、信用を得た。あの時点から術中に嵌まっていたのだ。

 同じ時計を持っていたのは、単なる偶然だったのかも知れない。けれども鑑定士は機転を利かせた。自分の贋作と、石上の本物を、すり替えようと思い立った。

「鑑定の際、部屋を移動するなどして品物を持ち運びませんでしたか?」