店長がしたり顔で通告した。時花もアッと声を上げる。
(私も事務室のパソコンで見たから判ります! 確かに『ねじ込み式』でした!)
「腕時計の多くは引き出し式リューズです。指でツマミを引き出すことでロックが外れ、細部をいじれます。対して、ねじ込み式は機械内部の気密性を保つために、引っ張り出せない構造になっています。文字通りネジのように掻き回す、珍しい仕様です」
珍しい仕様。
高額商品のアクアノートは品質を維持すべく、あえてねじ込み式を採用しているのだ。
「有名どころでは、ロレックスもねじ込み式ですが、業界全体で見ると少数派です。ゆえに、世間ではリューズの種類に気付かない人も多いです」
「うっ……」
石上は反論できなかった。彼自身、リューズの違いに気付かなかった素人だからだ。単なる『偽りのステータス』として購入していただけ。
「この贋作は貴重なねじ込み式リューズを調達できず、引き出し式リューズで間に合わせた粗悪品です。スーパーコピーですらない、当店も身に覚えがないガラクタです!」