「そ、それはわしが店に売った時計ではないか!」
一人の老人が声を荒げた。痩せ衰えた骨と皮だけの御仁は、女性客を呆然と見据える。
「我が孫娘よ、まさか時計を取り戻そうとしたのか?」
「だって、お爺様の宝物でしょう?」泣き崩れる女性客。「私の借金を返済するために売り払ったと聞き、耐えられなかったのです――」
それが彼女の動機らしい。感傷的な空気が店内に淀んだ。
「――私には買い戻すお金がなく、盗もうとしました。未遂とはいえ申し訳ありません」
「しかし、こうして未然に防ぐことが出来ました」水に流す店長。「実行していないのですから、あなたは無罪です。お爺さんを大切にして下さいね」
「え? 見逃してくれますの?」
「当店は被害届を出すつもりはございませんので」
店長は満面の笑みを湛えた。神か仏かと見まがう完璧な美貌だった。
「これにて一件落着です。風師さんが接客中、不審な女性に気付いたのもお手柄でした」
「お役に立てて光栄です! ご褒美に熱い抱擁を所望しますっ!」
女性店員は顔を火照らせて店長にしなだれかかるが、回避されて盛大にずっこけた。
「心を解きほぐす古物時計店『時ほぐし』――またのご来店をお待ちしております」
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