「ふざけるな! お前の店で買ったのに!」
「いいえ、存じ上げません」動じない店長。「アクアノートと言えば、十二気圧にも耐え得る防水加工やコンポジット素材のトロピカル・バンド、そして稀少な『ねじ込み式リューズ』が特徴です――しかし」
店長はアクアノートに生えているリューズを、汚物を眺めるように指差した。
(リューズ……そう、リューズに違和感があるんです……)
時花も眉をひそめる。店長はリューズを指でつまむと、グイッと引っ張り出してみせた。
「しかし、この時計は『引き出し式』リューズです。ねじ込み式ではないのです!」
何度も説明した通り、アクアノートは『ねじ込み式』リューズが正規仕様だ。
なのに、これは『引き出し式』だった――時花が抱いた違和感は、これだったのだ。
「だ、だから贋作なんだろ!」憤慨する石上。「鑑定書の通りじゃないか!」
「はい。だからこそ当店では取り扱った覚えがないのです」
店長はスマートホンを取り出した。
ブラウザを開き、店の通販サイトを呼び出す。その管理者ページにある石上三年の購入履歴から『アクアノート』をタップした。
店の商品画像が表示される。
そこには正規の『ねじ込み式リューズ』が写っていた。
「当店で撮影したアクアノートは『ねじ込み式』です! 引き出し式ではありません!」