元はと言えば、石上の身から出た錆ではないか。他人に責任転嫁しないで欲しい。
――直後、店長と叶が目配せした。黙したままだが、確かに頷き合った。
何だろう?
「今、原告は『贋作』と断言なされましたね?」
言質を取ったとばかりに、店長が口火を切った。
溝渕が小さく舌打ちする。あれほど暴言を慎めと注意したのに、石上は感情のまま喋るから困ったものだ。
店長は、我が意を得たりと笑壺に入る。
「贋作だと言い切る根拠はあるのですか? 当店は保証書もお渡ししたはずですが?」
「それも含めて偽物だって、銀座の鑑定士に言われたのさ!」
石上は懐からアクアノートの現物を出し、テーブルに放り捨てた。
四八〇万円で購入したパテック・フィリップ製アクアノート――によく似た腕時計――は、ゴールドのメタリックな塗装がまばゆい。ベゼルの右側面にある『引き出し式リューズ』も、蛍光灯を反射させて煌めいている。
(…………え? 引き出し式リューズ?)
時花はふと、違和感を覚えた。
うまく言葉に出来ないが、アクアノートのリューズ部分に異質なものを感じる――。