電話を切った叶が告げ、店長は頷いた。
颯爽と出かける二人を、時花は上着を羽織るのももどかしく追いかけた。二人が乗り込んだ車の後部座席にちょこんと腰かけ、運転席と助手席をぼーっと見やる。
助手席の店長はまっすぐ前を見据えている。動き出した彼の顔には嬉笑(きしょう)が満ちていた。
「着きました」
運転席の叶がブレーキをかける。
到着したのは都内の一等地にある、いかにも高そうなテナントだった。ビルの二階と三階を丸ごと法律事務所で独占した敵地は、依頼料も高そうだ。原告の必死さが伝わる。
溝渕法律事務所と看板が掲げられたその入口には、すでに原告が待ち構えていた。
「遅かったね、『時ほぐし』の詐欺師たち?」
石上三年――ヒモ大学生だ。
以前見た仕立ての良いスーツではなく、安物のカジュアル・スーツを着用していた。
金目の物は全て売却済みらしい。滞っているのは腕時計だけか。
「ようこそいらっしゃいました」
迎え出た年若い溝渕弁護士が、時花たちを客間へ案内する。
溝渕は、店長よりも若輩だった。優男な店長に対し、溝渕は精悍な快男児といった風采である。胸元の弁護士バッジが眩しい。この若さで独立しているのは優秀な証だ。