「時花さん、一息つきましょうか」
店長が暖かく手招きした。
今しがたの会計で、いったん客足が途切れたのだ。
時花は涙を拭くのも忘れ、閑散とした売り場を見渡した。中央に立つ物腰柔らかな店長は、先ほどの冷笑とは打って変わって巧笑を湛えている。
事務室へ先導した彼は、紅茶を振る舞ってくれた。
「時花さんにまで辛い思いをさせてしまい、申し訳ございません。何もかも僕の責任ですね……店長なのに力及ばず、部下を守れない不甲斐なさを露呈してしまいました」
「そ、そんなことはないですっ」
紅茶を受け取った時花は、全力でかぶりを振った。後ろに結んだ黒髪が激しく揺れる。
「ありますよ」
「ないですっ」
「ありますってば」
「ないんですっ」ぎゅっと目をつぶる時花。「店長はずっと頑張ってました。私が弱いだけです。今日も店長は噂の釈明に追われてたのに、店頭にまで出ていただいて……」