気を取り直し、お客様と改めて向かい合う。

 この客は時計を買いに来たものの、風評が気になって及び腰だったらしい。時花は事実無根であることを丁寧に説明し、無事に購入していただけた。

 正規品の保証書付きだから、誰にも偽物だなんて言わせはしない。

 言わせたくもない、のだが――。

「うわぁ。今の客、この店で買い物して行ったぜ」

 道端から響く、悪意ある会話。

 見れば歩道に並んだ若い衆が数名、ショー・ウィンドウ越しに店内を蔑視している。

「この店、すっごく評判が悪いよなー」

「ここで買い物するリスクは負えないわー」

「マジあり得ねーっしょ」

 一行はそのまま通り過ぎる。直接的な被害こそなかったが、昨日からひっきりなしに続く野次は、時花の精神(メンタル)を削った。生きた心地がしない。人間不信になりそうだ。

「私たちは、無実なのに……うっ……ひっぐ……ぐすん……」

 知らず、涙がにじむ。

 時花は生まれて初めて「悔しい」と思った。

 ――どうして判ってもらえないのだろう?

 ――なぜ人は無慈悲に他者を攻撃できるのだろう?

 日々追い詰められる崖っぷちに、時花の小さな胸は締め付けられる一方だ。