見れば、パソコンのメール・ボックスには三桁を超える未開封メールが受信していた。
二人は目を瞠った。これほどのメールを日頃から溜め込むはずがないので、今日になって大量に到着したのだ。
「通販の注文……でしょうか?」
「いや、たった一日で三桁もの注文や問い合わせが届くなんて、過去に例がありません。店の規模を考慮しても、せいぜい二〇通が限度です」
店長が怪訝そうに声を潜めると、慎重にマウスを動かした。カーソルをゆっくりとメールのアイコンに重ねて、ダブルクリックする。
開かれた受信欄には、もはや通販の問い合わせですらない、敵意に満ちた苦情だの罵声だの中傷だのが、間断なく送り付けられていた。
「な、何ですかこれっ!?」青ざめる時花。「件名も本文も全部、店を糾弾する批判ばかりですよっ!」
昨日の今日ので、あっという間に贋作騒動が広まっていたのだ。
『ここは贋作を売り付ける最低の店らしいな!』
『噂で聞いたが、俺が買った腕時計も偽物なのか?』
『他店へ修理に出した時計が、正規品と違うって言われないか心配なんだけど』
示し合わせたように抗議が殺到するなんて、偶然ではあり得ない。何者かの煽動だ。