これは決して、テレビの中だけの話ではない。
今ここに迫る危機。
時花たちも当事者なのだ。
「それでも、私は信じられません……」
時花はしかし、認めたくなかった。
大好きなこの店が、憩いの場が、不正に染められていたとは考えたくない。
三年前のことなんて知る由もないから、なおさら現実味がない。
時花にとって、ここは聖域なのだ。
「矢陰光さんも、悪い人じゃないと私は思いますっ」
「何を根拠に……」
「だって、店長が一度は愛した女性でしょう?」
「!」
「店長ほどの人が好きになった女性が、悪さをするわけないじゃないですか……だから私は、むしろ贋作を判定したという銀座の鑑定士がおかしいと思いますよっ?」
銀座の鑑定士。
そうだ。疑うべきはその人をおいて他にない。
そいつこそが、パテック・フィリップを『贋作』だと非難した張本人なのだから。