「誰が購入しようと関係ありません! 店の信用に傷が付いたことが問題なのです!」
「――あうっ、済みません……」
食い気味にたしなめられた時花は、首をすくませた。
購入者である石上は、女性に高額商品を貢がせていた小悪党だから、痛い目に遭っても自業自得だ。しかし、店が贋作を売った事実は覆らない。
「ブランド品の精巧な贋作……『スーパーコピー』問題は、世界的な急務でもあります」
店長が前のめりに机へ手を突いた。時花は慌てて身を引く。
パソコンをいじり出した店長は、インターネットのブラウザを開き、検索してみせた。
「国民生活センターによれば、贋作詐欺の相談件数ランキングにおいて、ブランド靴、ブランドかばん、ブランド財布に次いで、ブランド腕時計が第四位にランクインした年があったそうです」
すらすらと解説してみせる店長が博識だ。
腕時計という、従来では複製困難な精密機械までもが偽造されている。これはとてつもない脅威だった。業界全体が頭を悩ませているのは想像に難くない。
「特にスイスのブランド時計は売れ筋ですから、年々コピー品が増大しています。ロレックスやオメガは当然のこと、単価の高いパテック・フィリップも目を付けられています」
安全神話の崩壊。