2.



 矢陰光の素姓に、重大な疑惑が持ち上がった。

 今は居ない彼女だが、新たな問題を生み出した以上、存在を無視することは出来ない。

 矢陰光の蒸発には、現時点で二つの可能性が考えられる。


一.矢陰光は本当にドジな性格で、贋作とは知らず品物を仕入れただけ。店長と恋仲だったことからも、清廉潔白で間違いない。


二.矢陰光は前職のときから、ドジを装って発注をちょろまかしたり技術情報を漏洩させたりなど、贋作の製造に一役買っていたのかも知れない。その後『時ほぐし』で本格的に贋作を取り扱うも、店長と仲が深まるにつれ、情が移って悪事が働けず、姿を消した?


「邪推はしたくないのですが、光さんには疑念を抱かざるを得ませんね」

「て、店長……それは穿(うが)ち過ぎですよ」

 店長の悲愴な自嘲を、時花は痛ましく見上げた。

 それでも店長は笑っている。嗤笑(ししょう)である。元恋人の本性を見抜けなかった皮肉と蔑み。