猛烈に喉が渇いた。冬は空気が乾燥して渇きやすいが、決してそのせいではない。
「これって、店長の元恋人だった女性、でしたっけ……?」
「はい。ドジだった矢陰光さんなら、贋作を仕入れてしまうミスもありそうです……」
矢陰光もまた、時花に負けず劣らずのドジだった。
だからこそ、時花が後釜に収まったとも言える。かつての恋人の代用として。
「または、彼女が実は違法コピー品を闇へ流通させていた売人だったのかも知れません」
「店長! そんな卑屈にならなくても……っ」
「彼女は業務上の過失を苦に失踪したのではなく……贋作販売の悪事がバレないうちに、自ら行方をくらました可能性も浮上しましたね」
新たな疑惑が降って湧いた。
矢陰光はドジな振りをして、贋作をこっそり店で売りさばいていたのかも知れない。今回発覚したアクアノート以外にも、贋作が販売されていた恐れがある。
事実ならば小物商取引に違反する重大犯罪であり、古物時計店『時ほぐし』の存亡にも関わる重篤な問題だった。
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