まだ数ヶ月しか働いたことがないけれど、即座に暗算できてしまう。
ただでさえ青白い肌をますます青ざめさせる中、店長が笑って講釈する。
「アクアノートは前身のモデル『ノーチラス』を改良し、耐水性に優れたウオッチとして好事家の間で流行しました。十二気圧防水、ねじ込み式リューズ、海水の浸食にも耐えうるコンポジット素材を採用したトロピカル・バンドが特徴です」
商品画像も、通販サイトに掲載されている。
ネジ巻きのように取り付けた『ねじ込み式リューズ』と、スポーティでメタリックなフレームが印象的だ。店で仕入れたときに撮影された写真だろう。
「私も商品情報を閲覧して良いですか?」
「どうぞ。時花さんが時計に興味を持つのは喜ばしいですね」
店長が席を譲ってくれた。
時花はパソコンの前に腰を下ろし、アクアノートを拝見する。
「ほえ~……このアクアノート自体は、三年前に仕入れた在庫品なんですね」
三年前というと、この店が開業したばかりの頃だ。
当時は店長の他にもう一人、女性店員が従事していたと窺ったことがある。
「その通りです、時花さん。値段が値段だけになかなか売れなかったのですが、今年ネット通販を開設したことで人目に付くようになり、理由はどうあれ購入者が現れたのです」