ずらずらと列挙される高級腕時計の数々に、改めてヒモ大学生がお得意様だったと思い知る。同時に、それだけ多くの女性をかどわかした証左でもあり、気分が悪い。
「告訴状によりますと、石上氏はパテック・フィリップの『アクアノート』を当店で購入したそうです」画面をスクロールさせて行く店長。「ありました、これです」
およそ二ヶ月前の晩秋に、アクアノートと銘打たれた腕時計が買われている。
「こ、これって、めちゃくちゃ高いですよね?」
時花は画面を見た瞬間、つぶらな双眸が飛び出しそうになった。
パテック・フィリップと言えば、高級腕時計の中でもひときわ上位に君臨する超高価格メーカーだ。どんなに安くても三桁万円を下回らない強気な価格設定が有名である。
店長が大きく頷いた。
「世界三大高額ブランドの一つですね。残り二つはヴァシュロン・コンスタンタンと、オーデマ・ピゲです。とにかく値段が高いメーカーとして知られています」
「舌を噛みそうな会社ばかりですね……それで、アクアノートはおいくら万円ですか?」
「これは四八〇万円のモデルです」
「よんひゃくはちじゅうまんえんっ!」
時花は眩暈すら覚えた。
(私の年収より高いじゃないですか……)