時花がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、愛しき店長はぎこちない笑顔のまま、ようやく時花を認識する。
「こ、これはこれは時花さん。おはようございます……って、私服でフロアに立つのは規則違反ですよ。たとえ準備中といえどもね」
「あ、はいっ。申し訳ございませんっ」
さっそく駄目出しを喰らうも、時花は名前を呼ばれただけで天にも昇る気持ちだった。
慎むどころか浮き足立って飛び跳ね、ずっこけそうになるドジっぷりだ。
「はうっ。と、ところで店長、ここで棒立ちになって何をしておられたんです?」
「僕としたことが、迂闊でした……不審な配達物があったので、忘我していたのですよ」
店長は、かぶりを振ってから営業スマイルを作り直した。
さすが切り替えが早い。彼はいつも笑みを絶やさないことで有名だ。
笑顔にも種類がある。微笑、冷笑、艶笑、談笑、戯笑……全て異なる感情表現だ。
店長は『笑顔だけで喜怒哀楽を表現する』という、一風変わった人柄である。
「どんな配達物なんですか、店長?」
「これは告訴状です。とある弁護士からの内容証明ですね」
店長は笑語しつつ、握った書簡を持て余した。
告訴状。
内容証明。
きな臭すぎる。店長が柄にもなくうろたえるわけだ。時花も頭に血が昇った。