(あ。紅茶は()れてありますね……)

 給湯ポットのそばには、店長用のティー・カップが置かれていた。

 しかし、それさえも放置されている状況は、いささか怪訝に過ぎる。

 ――何らかの異変が、起きている。

「店長~? いらっしゃいませんか~っ?」

 何回呼びかけても、なしのつぶてである。

 時花はいよいよ身震いした。室内のエアコンはついているのに、うすら寒い。

「店長……店長……」

 急に心細くなって、時花は神妙に足を運んだ。

 本来なら更衣室へ向かうべきだが、悠長に着替える余裕などない。愛しの店長が見当たらない不安は、彼女の心理的動揺を喚起させた。

 ただでさえ挙動が危なっかしいのに、ますます頼りなく彷徨(さまよ)う体たらくだ。何もない場所で勝手につまずくし、壁に頭や肩をぶつけるしで、ドジを如何なく発揮してしまう。

(店頭へ私服で立ち入るのは禁止ですけど、気になりますっ)

 時花は店内を巡り歩いた。指定されたスーツでなければ店頭に出てはいけない決まりだが、それ所ではない。

 果たして――店長は居た。