(まぁ、時任(ときとう)店長になら(わら)われるのもご褒美ですけど……♪)

 時花は店長の時任(きざむ)に惚れている。なればこそ、失態続きも苦にならない。お慕い申し上げる殿方に今日も会える、それだけで気分がハッピーになる。

 仕事のモチベーションとは、得てしてそんなもので充分だ。

「おはようございます、店長っ」

 裏口から入店した時花は、事務室へ声をかけた。

 明かりのついた室内には、すでに店長が詰めているはずだ。朝早くから開店前の準備と在庫管理に追われている――と、時花は思い込んでいた。

 今日は違った。

「店長?」

 返事がない。

 時花は眉をひそめた。いつもなら穏やかな甘いアルトの声色で「おはようございます、時花さん」と会釈が戻って来るのだが、いつまで待っても音沙汰がない。

(いつも笑顔で応じてくれる超絶かっこいい店長が、私の挨拶を無視するなんて……!?)

 女性を軽視する紳士などあってはならない。

 時花は大いに遺憾を覚えて、事務室のドアを開けた。

 そっと内部を眺め回す。室内はしんと静まり返っていた。物音一つしない。