1.
(はぅっ、寒い……今日は一段と冷え込みますね……毛糸の下着を穿いて行きましょう)
年が明けて一週間が過ぎた。
古物時計店『時ほぐし』で働く風師時花は、正月休みがなかった。お年玉でブランド時計を買いに来る客も居るため、店は繁忙期なのだ。
「わひゃあ、路面が凍結してますね……」おっかなびっくり出勤する時花。「ひ、ヒールだと足下が頼りないです……滑らないようにしなグエッ!」
注意しても転んだ。
潰れたカエルのような悲鳴が響く。
冬本番を迎え、寒波はどんどん押し寄せる。関東地方の山間部はすでに積雪を記録し、一月中旬には平野部も雪が降ると予想されていた。
(うう~っ。相変わらず私ってば、ドジですね……)
耳まで真っ赤に染まったのは、寒さで霜焼けになったわけでは断じてない。
彼女はそそっかしい。間が抜けている。
ドジも愛嬌のうちとはいえ、仕事中でも遺憾なく発揮されるミスの数々は、雇い主の店長をして「時花さんからは目が離せませんね」と苦笑される始末だ。