鑑定士は自分の手首にある腕時計をひけらかした。たまげる青年を尻目に、手慣れた仕草でリューズ部分をグイッと引っ張り出し、同じ使用者だとアピールしてみせる。
「ほ、保証書も偽物だっていうのかい? 古物時計店で正規に購入したのに!」
「その古物時計店が、詐欺を働いたのかも知れません」
「何てことだ! 偽りのステータスに興じてた俺が、本当に偽物を掴まされたのか! 許さないぞ『時ほぐし』め……!」
同じ品を持つ者どうし、青年は簡単に信じ切ってしまう。
彼が時計を手放す元凶にもなった憎き店舗へ、鬱憤をたぎらせるのは当然だった。
「俺のヒモ生活を暴いたのも、その店なんだよ! もう頭に来た! 出るとこ出るぞ!」
「ここで長話するのも何ですので、奥の間へ移動しませんか? 他の品物も贋作の可能性がございますから、丁寧に鑑定しなければいけませんし……フフフ……」
青年を先導し、煽動し、鑑定士は腕時計をかき集めた。
――『時ほぐし』に贋作疑惑。
かつての常連客に取り入った、未曾有の危機が降り注ごうとしていた。
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