ロレックスやオメガは言うに及ばず、パテック・フィリップ、ハミルトン、IWC、日本のセイコーに至るまで、名だたる高級品ばかり揃っている。錚々(そうそう)たる売却リストだ。

(確かに本物のようだ……保証書には、購入店の印鑑も押されているな……なになに……古物時計店『時ほぐし』……だと!?)

 鑑定士のこめかみがうずいた。

 汗が頬を伝う。まぶたを見開く。口も開いたままになる。喉が渇く。息が詰まりそうだ。

(そうか……この客はもしかすると……!)

 何もかも腑に落ちた面持ちで、鑑定士は自分の手首に巻いていた腕時計へ目を落とした。

 パテック・フィリップの『アクアノート』という時計だ。

 これは今しがた、青年の売却リストにも連ねられていた。くしくも同じモデルだった。

「お客様……残念ですが当店では、これを買い取りいたしかねます」

「はぁ!?」顔を寄せる青年。「これ、ってどれのことさ?」


「当方も同じ時計(もの)を使用中だから判るのです……お客様が持って来られたパテック・フィリップの『アクアノート』は贋作です。保証書も偽造されたものでしょう」


「が、贋作っ!?」