鑑定士は片眼鏡の拡大鏡を左目に装着しながら、ごくりと息を呑む。
「この品数ですと、鑑定には結構なお時間をいただくことになりますが……」
「いいよ別に」つまらなそうにそっぽを向く青年。「俺、年末にドジ踏んじまってさ。女にブランド品を貢がせるヒモ生活から、足を洗うことにしたわけ」
「ひ、ヒモだったんですか」
「そう、ヒモ。腕時計もみーんな、女に買わせた『偽りのステータス』ってわけ。でも親に叱られちゃってさ。貢がせたモノ全部カネに替えて、女たちに返して来いって」
「はぁ……」
「今着てる服もアクセサリも、そのうち売るけどさ。まずは腕時計から処分するぜ」
質屋には、いろいろな客が来るものだ。
今の話が本当だとしても、鑑定士は客の内情にいちいち耳を傾けて居られない。
鑑定士は白手袋に五指を通し、順番に腕時計を品定めした。大量の売却を試みる客は得てして、贋作を売り逃げする詐欺師の恐れがあるから手を抜けない。
「鑑定士さん、ひょっとして俺のこと疑ってる?」
青年は目ざとく鑑定士に釘を刺すと、ポケットから何かをまさぐり出した。
見れば、何枚もの書類が握られている。
「これ全部、時計の保証書な。店で買ったときに付いて来たんだ。ホンモノだと思うよ」