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とある質屋のカウンターに、大量のブランド腕時計が差し出された。
そこの鑑定士は買い取りを頼まれ、思わず息を呑む。
ここは銀座だ。場末ではない。高級ブティックが建ち並ぶ一角に、この店はテナントを構えている。賃貸料だけで目が眩みそうな一等地のビルである。店内にはずらりと陳列された貴金属やブランド物が一覧できた。
その門を叩いた若き青年客は、苦虫を噛み潰した冴えない容貌だった。手提げ袋に詰めるだけ詰め込んだ高級腕時計を、ゴミでも捨てるようにカウンターへ放る。
「これ全部、買い取って欲しいんだけどさ」
きわめて不機嫌に、青年は告げた。
若造のくせに高価なスーツをまとっている。イギリスのダンヒル製だと鑑定士は見抜いた。ペンダントやブレスレットなどのシルバー・アクセサリはクロムハーツだ。耳のピアスにはダイヤモンドが埋め込まれ、袖のカフスボタンにもダイヤモンドが輝いている。
一方の鑑定士はと言えば、盛りの過ぎた中年である。
そろそろ隠せなくなった広い額。枯れた細腕。店の格式上、仕立ての良いスリーピースを着ているが、何年もそればかり着用している一張羅と言った風体だ。