矢陰光に扮した時花を、優しく、しかしきつく抱擁した。

 時花の頭が爆発した。顔から火を噴く。熱いどころではない。とろけて死にそうだ。

「ふぇっ? あ、あのっ店長?」

「時花さん、申し訳ございません……少しだけ、このままで居させて下さい……」

「こ、このままっ? はうぅ、いえ、そんなっ」

「光――」

「!」

 店長は、時花を見ていなかった。

 時花を介して、蒸発した恋人を見出していた。

 彼も一つの夢を見ている。

 その寂寥が、衝動が、万感の想いが、どうしてもこらえきれなかったのだ。

(私は彼女の代替物ではありません……けど、愛しの店長に密着されるのは役得かな?)

 将来的には、矢陰光ではなく『風師時花』として抱かれたい。

 時花もまた苦情(クレーム)を入れつつ、淡い夢に浸るのだった。



第三幕――了