時間は決して巻き戻らない。
過去に浸っていても、解決しない。
「わざわざ娘の変装までさせて、済まなかったのう……おかげで目が覚めたわい」
「いえいえ、私も素敵なドレスを着る機会が出来て嬉しかったですし!」
歓喜するポイントがズレている。やはり時花はちょっぴり間抜けだ。
そんな性分も、矢陰光に似ているのだろうか。
老紳士は顎を外しそうなほど爆笑した。
「吹っ切れたわい。わしは二度とクレームを入れないと誓おう……じゃが、気が向いたら買い物くらいは寄っても良いかのう?」
「もちろんです。今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます」
店長は直角に腰を曲げて、お辞儀した。
時花も慌てて真似をした。
老紳士は笑いながら店を出た。その背中は満足げで、誇らしく背筋を伸ばしている。
過去に囚われていたクレーマーは、未来を夢見るようになった。
無論、その夢が叶うかは判らない。
だとしても、新年にふさわしい新たな希望を抱いたのは間違いない。