憮然とする老紳士の前へ、店長が時花の肩越しに出現した。

「時花さんは、光さんとそっくりですよ。例えば……時花さん、ちょっと歩いて下さい」

「はい――……はうっ」

 時花がこけた。

 フォーマル・ドレスに慣れておらず、スカートの裾が足にからまって動きづらい。

「ご覧の通り、彼女はドジですぐ転びます」

「娘と同じじゃ! 光もよく、何もない廊下でずっこけておった!」

「品出しもよく間違えますし、掃除も遅いですし、書類の整理がぞんざいです」

「おお……! まさに光と瓜二つではないか!」

 そこまで声高に喜ばなくても良いのに……と時花は悲しみつつ、床から起き上がった。

 時花のドジが、矢陰光の模倣に役立っている。

「今日一日は、私を光さんだと思って接して下さい」

「じ、じゃがおぬしは本物ではない! わしを(あわ)れんでおるのか? 情けのつもりか?」

「まぁ、それもございますけど……」

「何ぃ!?」

「私は所詮、代役です。細かな言動はご本人と異なるため、過去の女性はもはやここに存在しないのだと、お客様の目が覚める(・・・・・)と思われます」