ほとんどは諦観だが、万が一、本当にほぐせるのなら……わらを掴む思いだった。

 ドアベルを揺らし、回転扉をくぐって、時計の修理という名目で顔を出すのだ。

「新年早々、オンボロを修理させに来てやったぞい」

 投げやりに毒づいてから、老紳士は大股で敷居をまたいだ。

 店内は、去年とは空気が入れ替わっている。クリスマスだの年の瀬だのと言った雰囲気から一転し、門松としめ縄と鏡餅で演出された、新年らしい晴れやかな空間があった。

 そして――。


「いらっしゃいませ」


 ――女性が一人、老紳士の前に立っていた。

 うやうやしくお辞儀する、楚々とした物腰。

 黒髪を束ね、肩を出したフォーマル・ドレスとほぼ爪先立ちのハイヒールで背を補う。

 愛嬌たっぷりに営業スマイルを放つその淑女は――。

「ひ、光?」

 ――老紳士の目を剥かせるには充分だった。

 しわがれた老体が微動だにしなくなる。