「えっ? そうは見えませんけど」
「もちろんお客様の前では、慇懃に振る舞う必要はありますけどね。――それに、まだ気付いていませんか?」
「な、何がでしょう?」
「僕、まだ名乗ってすら居ませんよ。ほら、ずぼらでしょう?」
「あ!」
時花は飛び跳ねそうになった。
青年はソファの上で居住まいを正すと、笑顔はそのままに改めて頭を垂れた。
「僕は『時ほぐし』の店長を務めております、時任刻と申します。現在二九歳、時計の中古販売に必要な古物商許可証を取得してから、およそ三年になります。最近はインターネットの通販サイトも開設したので、人手を補うために求人しました」
「あっはい、よろしくお願いします……」
って、二九歳?
会釈を返しながら、時花は耳を疑った。
アラサーには見えない。せいぜい二〇代半ばだと思っていた。男性の割に綺麗な肌ツヤ、聡明で彫りの深い顔立ち、物腰柔らかな佇まいなどが、彼を若々しく演出する。
何よりも、あの笑顔だ。
屈託のない営業スマイル。あれがとにかく眩しい。あんな微笑みを向けられたら時花は照れて正視できないし、人当たりの良さが彼を瑞々(みずみず)しく引き立てる。