親御さんが興信所や探偵を雇いましたが、足取りを掴めないまま現在に至ります。

 さらに親御さんは毎月、この店を訪れては、彼女が帰って来ないかどうかを確かめるようになりました。

 藁にもすがる思いなのでしょう。

 彼女の愛したブランドを買って哀愁に浸りつつ、それを修理に出すという大義名分を掲げながら――。



   *



「そんなことがあったんですね……」

 時花は目頭(めがしら)が熱くなった。

 長話ですっかり冷えた紅茶とは正反対だ。

 話し終えた店長は、ようやく乾いた喉を潤すべく、ティー・カップを一気に煽る。

「古いブレゲとフランク・ミュラーに込められた想い。彼女もまた、ポンコツで壊れやすかったのです。自分をブレゲに投影していたのかも知れません」

「私、他人とは思えません!」涙ぐむ時花。「可哀相ですっ! 私たちで彼女を救済できないんでしょうか!」