会社としては、利益になりそうもない意見は切り捨てるのが当たり前ですから、僕の改善提案が上司と折り合わないことも多々ありました。

 ついに上司と喧嘩し、仕事が行き詰まったとき――。


 ――彼女(・・)と出会ったのです。


 彼女は、本社工場の事務職でした。

 その人もブランド時計が好きで、珍しくメンズモデルに詳しい女性でした。

 年代物の古いブレゲやフランク・ミュラーを愛用していて、ブレゲの針がすぐ使い物にならなくなることも、熟知していました。

 いわく、

「そこが可愛いのよ」

 と。

「手間のかかる子ほど愛着が湧くものよ。お店の展示品が全て狂ってたのを見たことがあってね……そしたら放っておけなくて、思わず買っちゃったのが始まり」

 嗚呼(ああ)――ブレゲの愛好家と同じことを述べている。

 僕は感銘を受けました。