店長の出自が今、初めて語られようとしていた。
*
――僕は、時任刻という氏名に天命を感じながら育ちました。
時を任され、刻む者。
親は特に意識せず命名したそうですが、僕は名前の影響で時計に興味を持ちました。
名は体を表す、とはよく言ったものです。
小学生の頃には、家中の時計を分解して内部をいじったり、再び組み立てて正確に動作するか試したり……親には叱られましたが、時計への関心はずば抜けて高かったですね。
そんな念願が叶って、僕は大卒後、一部上場の大手時計メーカーに就職できました。
本社工場の開発職です。
技術開発は会社の重要ポストで、厚遇されました。僕の業務はお客様から寄せられたアンケートや苦情を元に、商品の改善提案や新作アイデアを企画開発するものでした。
顧客の意見を取り入れ、より需要の高い製品を発明する……理想はこうです。
しかし、時花さんもご存じの通り、苦情の全てが反映されるわけではありません。
少数のクレームにはいちいち対応できませんし、ただの言いがかりや難癖も届きます。