青年の左手首には、白銀に煌めく高価そうな腕時計が装着されていた。自身がモデルとなって、来客に商品をアピールするのだろう。それに、時計店の店主が腕時計を付けていなかったら拍子抜けだし、安物の時計だったら台なしだ。
「本日はよろしくお願いしますっ」
「ええ、こちらこそ。まぁそう固くならずに。奥へどうぞ」
青年は改めて、時花を招いた。
レジの奥に事務室があり、優雅にエスコートされる。
給湯室も兼備され、紅茶の良い香りが漂っていた。時花は事務室の前に立ったまま控えていたが、青年に「遠慮せず座って下さい」と言われてから、ようやく室内へ入る。
来客用のソファとテーブルが衝立で区切られ、そこで青年と対座した。
「履歴書と職務経歴書を見せていただけますか?」
「はっ、はい、こちらになりますっ」
時花は緊張して呂律が回らない中、急いでかばんから書類を取り出した。
迂闊だった。言われるまでもなく手許に準備しておくべきだった。催促されてからバタバタと手荷物を物色するのは、のろまな時花らしいと言えばらしいが、みっともない。
青年はそんな時花を見て笑うと、肩の力を抜いてソファに背を預けた。
「強張らなくても結構ですよ。実は僕も、堅苦しいのは苦手ですから」