そう懸念すると、たちまち時花は力が抜けそうになる。膝から崩れ落ちるのを必死にこらえて、時花は平静を装った。
「老紳士は私を『次の女』と蔑視しました。それは私より以前に、この店に勤めていた女性店員がいらっしゃったことを意味しますよね?」
「はい」
「しかも私は、その娘さんに似てそそっかしそうな面構えだとも聞きました。恐らくその女性もドジで、間抜けで、鈍臭かったんですね……何か自分で言ってて悲しいですけど」
「まぁ、そうですね」
「う~。早くスキルアップできるよう頑張ります……」ちょっぴり拗ねる時花。「その女性は、何らかの事情で行方をくらましたのではないですか? 老紳士は女性の面影が忘れられず、定期的に来店しておられるのでしょう」
「勘が鋭いですね、時花さん」
「娘と呼称されてたことから、父娘であることも確定です。彼女に何があったのか――」
そこまで喋り倒した時花は、店長の顔が思いがけず歪んでいたのを直視した。
咄嗟に口を閉じる。
(店長が……笑うのをやめちゃいました!)
とてつもない珍事だった。