店長も負けじと見返したが、飽くまで接客中のため、絶対に敵意は出さない。

「偉くなどありませんよ。僕にとって、お客様は神様ですから」

「ほざけ。新しい女の店員(・・・・)なんぞ雇いよって、上司(づら)しておるではないか」

 いかにもな難癖の付け方だった。

 店長のみならず、時花にまで矛先を向けようとしている。

「かつてわしの娘(・・・・)を雇っていたように、次の女を見付けたということか? 確かに娘に似て、そそっかしそうな面構えをしておるな……この放蕩三昧の優男め!」

(――え?)

 時花は耳を疑った。

 店長は決して営業スマイルを崩さず、動じない。

(娘? 老紳士の娘さんが、ここで働いていたのでしょうか……?)

「わしは三年前から、娘のよしみで店に通い詰めたが……やっと貴様の腹が読めたわい」

「僕も嫌われたものですね。でも僕は従来通り、お客様一人一人と真摯に向き合うだけです。お客様の苦情(クレーム)を解きほぐすのも、古物時計店『時ほぐし』の職務ですから」

「ふん。せいぜいほざいてろ、なまくらめが!」

 老紳士は修理の契約書を受け取ると、コートのすそを翻した。

 去り際、時花のことを一瞬だけ視界に収めたが、それっきり何も言わず退店した。