「もうじき年の瀬、そして新年ですね」

 店長が店じまいの準備をしながら、感慨深く呟いた。

 時花はレジで締めの支度を整えつつ「そうですね」と生返事をよこすのみだ。

 本当なら尻尾を振って店長との歓談に興じたいが、謎解きに思考が支配されている。

「僕の見立てでは、大晦日に駆け込みで老紳士が修理の依頼に来ると睨んでいます」

「え! あ~、先日買った時計を、さっそく壊して来そうですよね――」

 何の気なしに吐き捨てた直後だった。

 ドアベルが高鳴って、本当に老体が駆け込んだ。閉店間際(ギリギリ)の到来だった。

「店長はどこじゃ! ここで買った腕時計が二つとも、またぞろ故障しよったわい!」

 鬼面を模したような剣幕で、老紳士がレジに詰め寄った。怖い。

 老人の手には予想通り、古いブレゲとミュラーの時計が握られている。

 ブレゲは針を調整してもすぐ狂い始めるし、ミュラーはもはや作動すらしていない。

 時花はどうして良いか判らず、涙目で店長に振り返る。当の店長は落ち着き払った仕草で、時花と立ち位置を入れ替わるように老紳士と相対(あいたい)した。

()計の修理ならお()せを、でお馴染みの時任(・・)です」

「ふん、偉そうに。この三年で一丁前に呟くようになったもんじゃのう、なまくらよ?」

 どうしてそんなに喧嘩腰なのか。