「さ、三年っ!?」脳天から抜けるような奇声を発する時花。「え、待って下さい店長。確かこのお店を開業したのも、三年前でしたよね?」
以前、店長が時計メーカーを退職して店を開いたのが、三年前だと伺った。
つまり、そのときから老紳士は顔を出し続ける、古参中の古参客なのだ。
しかも悪名高いブランドばかりを狙い撃ちする、厄介な客――。
「う~っ、わけが判りませんっ!」匙を投げそうになる時花。「どうして『時ほぐし』に粘着するんですか、その老人は! 店長が恨みを買うようなことをしたんですか?」
矢継ぎ早に店長を問い詰める始末だ。
壁際に追い詰められた店長は、いつになく切迫した時花を見下ろすと、どうどうと手で制した。艶笑を浮かべて骨抜きにかかる。
「そこまで気になるのであれば、時花さんに推理していただくのも悪くありませんね」
「ふへっ? す、推理ですか? 私がっ?」
「ええ」片目をつぶる店長。「壊れやすい腕時計を求めて足しげく通うクレーマーの正体と謎……さぁ、時花さんに解きほぐせますか?」
「ええええ~~~~っ!?」
とんでもない難題を吹っかけられた。
時花に頭脳労働を課すなんて、この世には神も仏も居ないのかと天を仰ぐ。