営業スマイルから苦笑いに豹変する。

「ははは……あのご老体にも困ったものです」

「ど、どういうことですかっ? 常連とはいえ、相当に悪質なお客様じゃないですか?」

「あの方は、毎月必ず訪れるクレーマーです。買った品が必ず壊れて戻って来るのです」

「毎月買っていらっしゃるんですか? かなりの出費になるのでは……」

 そこまでして、苦情を突き付けたいのか?

 老人の考えることが、時花にはさっぱり不明だった。

「わざわざ壊れやすいと噂されるメーカーの腕時計を購入する点も、狡猾です」

「ブレゲとフランク・ミュラーって、故障しやすいんですか?」

「昔は、各所で名前が上がるほど有名でしたね……現在は高品質なのですが」

 店長は言葉を濁した。

 だが、時花はそこを追求せざるを得ない。老紳士の謎に関わるからだ。

「老紳士の目的は、何なんですか……?」

 年の暮れに舞い込んだ新たな謎が、時花の日常に刻み込まれた。



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