わざわざ『時ほぐし』で買い物して、そのつど抗議しているのか?

 薄気味悪いものを感じて、時花は身震いした。

「こちらがオーバーホール済みのお品物でございます」

 店長が、ケースに入った二つの腕時計を差し出した。

 老紳士は乱暴にケースをふんだくる。

 雑な手付きだった。ぞんざいに扱って、また故障すれば苦情になると考えていそうだ。

「ふん。では今日も買い物しようかのう」

 老紳士は退店せず、店内をうろつき始めた。

 時花が目を疑う中、店長が付き添って商品説明と案内を担う。

「本日は何をお求めでしょうか?」

「いつものメーカーじゃ。毎月末の給料日に、ここで買って帰るのが楽しみでのう……この古いブレゲとフランク・ミュラーをもらおうか。支払いはカードじゃ」

 品定めもそこそこに、ほぼ即決で老紳士は購入を決めた。

 しかも二つ。

 あたかも、最初から買うブランドを決めていたかのようだ。

 老紳士は支払いを済ませると、振り返りもせず一直線に退店する。店長は入口でお辞儀して、老紳士が見えなくなると、フーと長い溜息をついた。