来客だ。

 店長は咄嗟に口をつぐんで、入口へ体を反転させた。

 相変わらず店長の変わり身は早い。ピシッと直立した身のこなしと、一目惚れしかねない完璧な営業スマイルを瞬時に構えるのだから、もはや一種の条件反射、職業病だ。

「噂をすれば影、ですね。修理の依頼人がご入店しましたよ」

 店長が前へ進み出て、客人を迎え入れる。

 それは――老人だった。

 と言っても、まだ初老だ。還暦は過ぎていないだろう。

 ロマンスグレーに染まった髪の毛は豊かで、上背も高い。

 店長が見上げる目線だった。ハンチング帽にスリーピースのスーツ、マフラーとトレンチ・コート。色は全てダーク系の、シックで渋い老紳士である。

 老紳士はしかめっ面で、くぼんだ眼窩(がんか)から双眸を光らせる。

「ふん。今月も来てやったぞ、なまくら店長めが」

(な、なまくら?)

 聞き捨てならない暴言に、時花が目くじらを立てそうになる。

 店長は微塵も動じず、老紳士に会釈した。すでに毒舌も聞き慣れている様子だ。

 今月も来てやった、ということは、毎月欠かさず顔を出す常連なのか――?