「特に年代物は、定期的な修復が欠かせません。アナログな精密機械なので、ちょっとした衝撃でゼンマイや歯車が食い違う、と言った故障は日常茶飯事です」

「繊細なんですね。今の時計はそんなこと聞きませんけど」

「古い時計ほど、お金と手間がかかります。しかし、そうやって世話を焼くうちに愛着が湧くのです。時代を超えて好事家が多く存在するのも、これに尽きます」

「なるほどです……やはり古いものは壊れやすいんですね。具体的に、取り扱いに気を付けるべきブランドやメーカーはありますか?」

「無論、ありますよ」

 店長は周囲を見回した。店内に誰も居ないことを再確認すると、小声で入れ知恵する。

「時計を悪しざまに言うのは気が引けますが……経験上、修理の依頼が多かったり、故障しやすい噂が絶えなかったり、口コミで悪評が広まったりする品物は存在します」

「それは実際に統計が取れてるんですか?」

「ある程度は。修理士どうしの情報交換や、ネットの評判から裏付けされています……たった今、時花さんが持って来た二つもすぐ壊れる(・・・・・)ことで有名な――」

 そこまで店長が言いかけた矢先だった。

 ――カランコロン。

 店のドアベルが軽やかに鳴った。