(これでしょうか? 二箱ありますけど……)

 どちらか判らなかったので、両方とも持ち運ぶことにした。

 腕時計だから軽いし、片手で一つずつ運搬できる。

 片方で良ければあとで返却すれば問題ない。とりあえず持って行くのが賢明だろう。

「店長、二箱あったので両方持って来ました。これでよろしかったでしょうか?」

「上出来ですよ時花さん。もっと手際よく従ってくれたら満点ですね」

 満面の笑顔でたしなめられた。

 時花はケースをレジの下へ忍ばせてから、改めて店長と正対する。

「店長は、あの工房で修理をなされているんですよね? 時計の修理が完了して、お客様が取りに来るんでしょうか?」

「はい。本日、お客様へ引き渡す予定です」レジ下の品を眺める店長。「当店では購入品の六ヶ月間無料保証や、その後の無償メンテナンスサービスを実施していますが、他にも細かな調整や部品換装などの依頼があるのですよ」

 店長は幸せそうに、身振り手振りを交えて作業の様子を思い描いた。

 彼は時計修理技能士でもある。大好きな時計をいじる時間が、何よりも至福のひとときなのだ。

(わぁ、店長ってば楽しそうです。さすがは元メーカー勤務……)