「やれやれ……ただでさえ時花さんはおっちょこちょいですから、集中して下さいね?」

 たしなめるような店長の美声は、時花に容赦なく突き刺さった。

 ――そう、時花はおっちょこちょいだ。

 複数の作業を抱えるとミスが連発してしまう。ゆえに業務を溜めず、一つ一つ迅速に処理しなければならない。

 立ち止まっている暇はないのだ。

(よしっ、さっそく気合いを入れて頑張らなくちゃ!)

 時花は両拳を握りしめた。

 そして歩き出そうとして――再び店長に向き直った。

「え~と、それで私は、次に何をすれば良いでしょうか……?」

 彼女らしい間抜けな質問だ。

 店長は両肘を抱えると、冷笑から憫笑(びんしょう)へ変貌した。

「奥の工房にある修理済みの腕時計を、レジ下の棚に運んでおいて下さい」

「承知しましたっ。奥の工房です――……ね?」

 踵を返そうとして、ふと立ち止まった。

 迅速に動くべきなのに、さっそく歩を休める辺りが時花である。

「工房に私が入ってもよろしいんですか?」